前回の登山から約2週間後、体の疲労も膝の痛みもすっかり回復したため、同じ山に山登りに行くことになった。今度は、最初から初心者コースに従って登ることを決めた。
登山当日、AM7頃出発した。前回の登山は、弁当を持参したが、今日はAM6から営業している天然酵母のパン屋さんで、手作りサンドウィッチなどを調達しながら山登りに向かうことにした。車で約3時間かかり、到着はAM10だ。
サンドウィッチを調達した天然酵母のパン屋さんは、家の近所で大きなパン屋の看板が目立つ店だ。食パンの甘味というのが苦手な私には、そこのパンは甘味が全くなく天然酵母を使い、厳選した素材を使って丹精込めて作られたパンは、とにかく美味しい。パンを作っている店主からも、なんとなくこだわりの意志の強さが感じられる職人的感覚の強い人だ。朝早くから営業していて、パン売り場の奥には、ちょっと広めの隠れ家的要素のある歴史を感じさせるような、そこが新しさを感じさせるような面持ちのある喫茶店があるのだ。朝早くから地元の方々で大賑わいだ。朝から、空席を待っているお客さんもいるほどの盛況ぶりだ。サンドウィッチは、絶品と呼ぶほか言葉が見つからないものだ。車で、朝食兼昼食をしっかりいただき、到着した。
さあ、今から山登りだ!
前回歩いた川沿いを歩きながら、知っている道を3人で歩き始めた。今日は、しっかり、ゆっくり川の水に手を入れながら、その冷たさを十分実感しながら、気分的にもゆとりがある出発となった。もう今日は、楽しい予感しかしなかった。
不思議なもので、岩場を歩いても前回ほど疲れないのだ。だんだん慣れるということはこういうことなのだと実感しながら、ゆっくりでもなく速くでもなく、丁度良いペースで、私の後ろを歩いているさぶにも、前を歩いている娘のぺースを乱すことなく歩けている。相変わらず、片手には丈夫で太い木の棒を杖がわりにどんどん進んで行く。途中の老朽化した吊り橋ももう怖くない。どんどん進んで、白い運命の分かれ目の看板にたどり着いた。もちろん、初心者コースに進むのだ。初心者コースは、上級者に比べればなんて思いながら、頭の中は“楽勝”という文字が浮かんだ。
初心者コースには、休憩所まであった。手作り感が色濃い休憩所だ。木製の椅子には、10人ほどが座れるスペースがあり、藤の季節には、藤が咲いて綺麗だろうなと想像させる鉄骨製の藤棚があった。そこで休憩しながら、写真撮影。
さて、進もう。どんどん進むと、なんだか険しい道だ。上級者コースの道に非常によく似ている。コンクリート製の階段。大きさや高さのまちまちな階段や岩を手でつかみながら、急斜面を上がっていく、息切れがしてきた。これが初心者コース?と思いながら楽勝という文字は、木端微塵に砕け散っていた。疲れた。「なんだか、嫌だ!になってきた。」階段の途中で、お茶を飲みながら休憩。岩を登りながら休憩。そんな私を見て、さぶは「大丈夫か?そこに座れるところがあるから、そこに座って休んだら?」と平たい座れそうな石を指して言った。「少し休む。」と言いしっかり休むことにした。先に行っていた娘も戻ってきて、「この先鉄骨のはしごがあるよ。」と教えてくれた。皆一緒に休憩タイム。
さあ。登ろう!鉄骨のはしごの前は、吊り橋がかかっていて、その先には、垂直にそびえる老朽化した茶色の錆が噴いていて、足をかける鉄板に穴が開いていて、今にも崩れそうなはしごだった。老朽化の見栄えも恐怖を感じたが、垂直のはしごの長さにも恐怖を感じた。Wの恐怖だ。まず娘からはしごを両手でしっかり持ちながら進んで行った。あっという間に登りきっていた。その様子を見ながら、続く私だった。地面に近い階段は、わりと登りやすく感じたが、中盤から上は足がすくんだ。下を見れば地面から遠かった。さぶが「なんだ!そのへっぴり腰は。途中で止まったら危ないじゃあないか。ももが落ちればさぶも一緒に落ちる。下見ないでいいから、ゆっくりでいいから。」怖くて怖くて足がすくむ。足を延ばして次のはしごに足をかけると老朽化したはしごがしなりながら音をたてて、ゆがむのだ。
私のせいで、さぶの下は大渋滞だ。登ってくる人がはしごの途中にとまっていた。ようやくへっぴり腰が登りきった。と思った瞬間、そのはしごはまだ先にも、その先にもいくつも伸びていた。全部で4つのはしごが見えた。めまいがして倒れそうになったが、今となっては、とてもこのはしごを下る勇気は私にはなかった。登るより恐ろしいことだった。もう、前に進むしか道は残されていないのだ。大渋滞を起こしてはいけないので、皆さんには先に行ってもらい、その後またぺっぴり腰で、さぶに「おー。危ない!」と言われながら登った。最後のはしごにようやくたどり着いた。上の方から娘の声がした。「ここは、さぶが先に登らないと登りきれないよ。」と。いったいこれ以上何が待ち受けているというのだ。ホント怖いわ。恐怖でしかない。最後のはしごはさぶが先に。えー!怖い。私の下で支えてくれる人が前にいる!初心者コースって?何?ねえ。なに?ここ落ちれば、命にかかわるんじゃあない?的状況。とにかく助けて!!と叫んでも登らなければならないこの状況の選択者は私なのだ。
はしごの最後の一段の先を見たら、もう真っ青だ。なんだ?さぶがくりぬかれた小さな穴倉のような岩場をはっているではないか。綱もその先から伸びていたが、その綱を信用して握ったら、真っ逆さま?の可能性はあるよね。もうやめて~。怖いから。さぶは、小さな穴倉のようなところで、体の向きを変えて、私に手を差し伸べてきてくれたが、私の両手ははしごの両端をしっかり握ってはなすことはできない。はしごから手を離せば、落ちるよね。これって何?さぶはレスキュー隊?あー。どうしよう。震える。「まず、片手にこの綱握って、片手をこっちに。」綱?その綱だよね。細いよね綱。「その綱どっから伸びてる?」と聞くと「見えんなぁ。」得体のしれないところから?な訳?さぶも足場がないようだ。危険極まりない!「さぶとにかく。先に行って様子見てきて。待ってるから。」また、穴倉の中で体制を変えて、姿はもう見えなくなってしまった。「もどれんぞー。」という声が聞こえた。なにやら、娘とさぶが穴倉の先で相談している声が聞こえてきた。娘がどこかの岩に手をかけ、足をかけ、さぶが娘につながりながら、手を伸ばしてくれている様子だ。綱を持って、手を伸ばし、さぶの手を取りようやく穴倉の中に体半分入った。あとは肘を使い這いながら、ようやく脱出することができた。その先にも階段だ。いったいどういう仕組みの作りなのだろう。複雑極まりなかった。
恐るべし、初心者コース!やだ!命がけ?と思っていたら、小学生の子供たちが、すんなりクリアしているではないか。小学生にも劣る身体能力なのだろうか。また、はしごを登り、岩場を登り、吊り橋を越えて、ようやく山頂だった。素晴らしい絶景だ。昔からの言い伝えで、神が降りるというその場所は、神が創作したかのような風景だった。決して人間が創作などできない創りなのだ。この絶景と共に自撮りしてみた。あとで、その写真を振り返るとなんと!私の髪の毛あたりに虹色がくっきりかかっているではないか。神のみぞ知るその虹の理由は、知ることはできないが、その虹色がきれいだったことから、なんだか嬉しくなってきた。
さあ。今度は下りだ。もうはしごはなかった。岩場と階段を下り、吊り橋を渡り、今度は右手に巨大な洞窟が見えた。娘は、洞窟のほうに。娘は相変わらず足取り軽く、疲れを知らない様子だ。さすがに、もう洞窟までは行く元気はなかったから、さぶと近くで座りながら娘の帰りを待っていた。しばらくすると、洞窟の中の話とともに娘が帰って来た。洞窟の話を聞きながら、3人でまた下って、ゆっくり足元に気をつけて帰り、帰路に着いた。
初心者コースといってもかなりの恐怖を感じたが、日常生活に戻れば楽しい思い出になったように思います。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
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