極める力

昔から1日2時間しか寝ないという友人がいる。3時間寝ると体はだるくなって、寝過ぎだという。彼の1日の稼働時間は、22時間あるのだ。1日22時間稼働することができたら、もっと今以上にたくさんのことができるだろう。人間の体の構造は同じはずだが、そういう体質の人も実際にいるのだから驚きだ。

友人の風貌といえば、長い髪を後ろで無造作に束ねているのが、トレードマークと浅黒い肌が特徴的だ。友人は、パソコンが好き過ぎて、昔からよく分解して、自分で組み立てた経験を重ね、その後、パソコンを1から作ってしまう腕前になったという。そのパソコンを作ってもらったのは、15年以上前のことだ。その当時のパソコンは情報処理能力も遅く、データー量も小さく重いものが多かったが、そのパソコンは、今のパソコン以上の速度で、データー量は限りなく無限と思われるほどだ。普通に使用しているのなら、全体の1%くらいしかパソコンの中では使用していない、スーパーコンピューターの計算能力を応用しているような感覚らしい。超高速でストレスは感じたことがない優秀なパソコンだ。今では、会社のデスクトップもノート型も全て彼が作ってくれたものを使用させてもらっている。スタッフも、「会社のパソコンが普通になってしまって、家のパソコンを使うと歴然とした差があるので、自分用のパソコンを作ってほしい。」という声も多く聞き、実際に作ってもらって皆喜んで使用している。友人曰く、「このパソコンは、頭の構造と脳みそがぜんぜん違う。」と話す。

深い技術的知識から、パソコンの腕前は、テレビ番組にもでてくるハッカーのあの手さばきをよく目にする。防衛省のホワイトハッカーコンテストに出られるほどではないだろうか。以前「何でもできる?」と聞いたことがある。「できないことはないけど、間違ったことは絶対にしない。」という。大学からの友人で、信頼のできる人物であるのは間違いないが、立派な持論の持ち主だ。

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しばらくして、ある日パソコンが壊れてしまった。休みの日に直しに家まで来てくれた日のことだ。昼前に、大きなクーラーボックスを片手にやって来た。クーラーボックスの中身は、友人が昨日釣ったというメバルやイカなどがたくさん入っていた。今からさばいて刺身にするという。「今、釣り人。世界をまたにかける男になった。」と言って笑いながら、自分が載っている新聞や雑誌を見せてくれた。白いキャップを被り、何よりも洋服がいつもと様子が違って、あか抜けていた。全部スポンサーがくれると、大喜びしながら、風呂敷を思いっきり広げ話をしていた。釣り師修行を秘かにしていて、いつか驚かそうと、今か今かと待っていたと話す。実は、無口な印象があるが、話はじめたら、話は止まらない。よく喋り、よく笑う。

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魚をさばく前に包丁を研ぎ、手慣れた手つきで、魚をさばきながらもよく喋る。喋れば手が止まる。せっかくクーラーボックスに入れて冷たくしてきた魚が残念なことに、刺身として出される頃には、すっかり生ぬるくなってしまっていた。確かに生ぬるさはあったが、新鮮で甘味があって美味しい刺身だった。包丁裁きも職人のように決まっていた。こちらもきっちり修行をしたそうだ。何でもとことん極める力の意欲の強い人だ。

友人は昔から、シャネルの“ANTAEUS”が好きで、いつも愛用していた。もともとレザー調の香りだが、新しく買った香りは、以前よりもレザーの香りが強くなっていて、深みがなくなったという。確かに天然香料の割合によって、その年々の気候によっても香料の出来は異なることから、多少の香りのアクセントの違いも出てきてしまうこともややあるだろう。どんな香りもトップもミドルもラストも、全て時間の経過と共に変わる香りを捉え、模倣することは、調香の初期に習う事だったが、もともと模倣は、時間のかかる作業でもあることから、1ヶ月以上は時間を要したが、1度創ることが出来れば、そのあとは簡単だ。創った香りを嗅ぎ、「これ!これ!この深み。」と、いつも喜んで使ってくれる。嬉しい限りだ。

昼食の刺身の後は、壊れたパソコンを全て分解しはじめ、話しながら手が止まりながら、時計の針は何周もしていた。8時間以上の時が経過していた頃、ようようやくパソコンの修理は完了した。いつも通りサクサク動くようになって、有難い。何時間もかかっても変わらず、すこぶる元気な様子だ。実際2時間しか寝なくていい体なのだから、彼の時間はまだまだ長い。


昔から、”好きこそものの上手なり”という言葉があります。好きだからこそ、極めることができるのだと思います。ただ、極めるには、相当な努力と忍耐も必要ですが、そこで最後までやり切ることができれば、その道を追求し極めることができていくのだと思います。極めた力と言うのは、本当に素晴らしく魅了されるものです。

ここまで、読んでいただきましてありがとうございます。

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